紹介
編集多くの作家たちの創作活動は、外の世界を観察するところから始まります。見たことのない場所の景色を表したり、身近な風景に新たな視点から光を当てる作品は、これまで人々の好奇心を刺激してきました。では、「歩く」という行為そのものに目を向けてみると、何が見えてくるでしょうか。散歩や登山、巡礼といった活動は、ある場所から別の場所への移動手段ではなく、自由な思考を促し、崇高なものへと接近してゆくための身体的なプロセスとなりえます。一方で、誰もがどこまでも自由に歩いてゆけるわけではありません。ある人がどこを歩くことができ、どこにとどまるのかは、その人の身体と、それが位置する社会の中で規定される政治的な側面を持っています。「歩く」という行為は、そのような状況に対する抵抗や抗議の手段としても使われてきました。こうした多層的な意味と機能を持つ「歩く」という行為は、芸術作品の中にもさまざまな形で見いだすことができます。本展では、「歩く」あるいは「とどまる」という行為を切り口に、当館のコレクション作品を紹介します。展示される作品には、一歩を踏み出すという身体的な行為を起点に、外の世界を観察すること、思考や記憶の内側へと分け入ること、また、歩く人が位置する場所で生じる摩擦や関係性のなかで交渉する姿など、さまざまな「歩み」があらわれます。その際、歩くことと、とどまることは、対比的に捉えられるものではありません。歩行のなかには立ち止まりが含まれ、定住もまた、長い時間軸の中での一時的な滞留と考えれば、それらは速度とリズムの違う連続的な動きと捉えることができるでしょう。歩く、とどまる、というシンプルな行為から、観察、抵抗、記憶や時間への思考といった、多様な態度へとつながるこれらの実践を通して、人と空間、そして社会との関係性を浮かび上がらせます。
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