紹介
編集私たちの周囲には、形として残るものだけでなく、時間とともに移ろいながらも確かに存在していたものがあります。風景のなかを流れる時間や、その場に漂う空気、あるいは生命の気配。そうしたものは、目に見えるかたちでは捉えきれないことも少なくありません。
二人の作家は、それぞれ異なる方法を通して、そうした移ろうものの痕跡を留めようと試みています。
岩崎広大は、昆虫と風景の関係性に着目しながら制作を行っています。《かつて風景の一部だったものに、風景をプリントする。》シリーズでは、昆虫の身体にその生息地の風景写真をプリントし、土地の環境によって形づくられてきた生命の痕跡と風土の記憶を重ね合わせています。また、虫が樹木に開けた穴をピンホールとして風景を撮影する《LANDSCAPER》シリーズでは、人間以前から自然界に存在していた"写真的な現象"へと目を向けながら、昆虫と風景、場所と時間のつながりを見つめています。
一方、田中嵐が制作に用いるのは「結晶化」という自然現象です。自身が撮影した風景や人物の写真を鉱物液に浸し、波音や被写体の心音といった写真に関連する音を聴かせながら結晶を成長させます。写真だけでは留めることのできない空気や時間、存在の気配は、結晶という自然現象を媒介することで物質として定着していきます。環境によって変化を続ける結晶は、目に見える像の奥にある時間や生命の存在を静かに想起させます。
両者の作品は、写真という手法を出発点としながらも、単なる記録や保存にとどまりません。むしろ、変化し続ける世界に向き合いながら、そこに生じる関係や痕跡を別のかたちで留めようとする試みとして存在しています。
本展は、「残すこと」とは何かを問いかけます。二人の実践は、形として残るものと残らないもの、そのあいだに生まれる痕跡へと私たちの眼差しを向けます。
*Latent・・・潜在的な、内在する。
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